1.人材紹介のビジネルモデル自体に問題あり

1.人材紹介のビジネルモデル自体に問題あり
はじめに

この記事は、「医療職の人材紹介会社の闇」をテーマにしたシリーズの1つ目の記事です。

 

人材紹介会社のビジネルモデルの闇・問題点

人材紹介とは、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんすること」(職業安定法第4条第1項)です。

 

あっせんを経て雇用関係が成立した場合に、求人者から人材紹介事業者へ手数料を支払うという仕組みが一般的です。

求人者 病院やクリニックなどの医療機関、介護施設
求職者 看護師、医師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護士

両者のマッチングが成功した際の紹介手数料は、職業安定法によって上限制手数料と届出制手数料の2種類に区分されています。

多くの人材紹介会社が採用しているのは届出制手数料です。

 

これは求職者が得られる理論年収から割り出す仕組みとなっており、相場は20~35%となっています。

また、正社員かパートか、看護師の場合は夜勤が可能か否かなどで変動したり、多少の地域差があったりします。

Q:理論年収とは?

A:理論年収とは、病院やクリニックに1年間勤める際に得られる年収です。
月収や賞与、手当などに基づいて計算します。
求人情報に掲載されているものが「理論年収」です。

 

 

リアルな人材紹介手数料の目安

厚生労働省によるアンケート調査に回答した約7割の医療機関が、「人材紹介会社の手数料が経営上負担」に感じているようです。

 

具体的な数字が記載されている資料があるので、ご紹介します。

引用:医療・介護分野における職業紹介事業に関するアンケート調査集計結果(概要)
厚生労働省職業安定局需給調整事業課
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000579094.pdf

紹介料の目安

平均的には理論年収の20%ですが、理論年収の35%前後の会社もあります。

 

以下、実際に支払われた手数料の一人当たりの平均額(厚生労働省による)を資格別にまとめます。

医師 276.6万円
保健師・助産師 82.7万円
看護師・准看護師 91.8万円
看護助手 58.7万円
薬剤師 122.5万円
療法士 86.2万円

相場観として、看護師1人採用するのに90万円ほどです。

理学療法士や作業療法士を1人採用するのに85万円ほどのコストがかかります。

介護士については、別の資料になりますが、60万円前後となっています。

 

他人事では済まされない!「社会保障費の問題」

転職エージェントに支払われる手数料は、医療機関の売上から支払われます。

保険診療を行う医療機関の経営は主に「診療報酬」で成り立っています。

その診療報酬は、税財源からの支出であり社会保障関係経費です。

 

「社会保障関係経費→診療報酬として医療機関へ→設備費や人件費の他に人材紹介会社への採用コスト」

社会保障関係経費の一部は、医療機関を経由して人材会社に支払われているのが現状というわけです。

 

この社会保障関係経費は、国の一般会計歳出の約3分の1を占め増加が問題視されています。

引用:日本の財政を考える(財務省)
https://www.mof.go.jp/policy/budget/fiscal_condition/related_data/202210_kanryaku.pdf

 

この影響を受け医療系専門職の年収は維持するのがやっとという状況ですが、、、。

かたや人材紹介業界では、「医療系専門職領域は右肩上がりの市場で、今後も大きな売上が見込める」など、盛り上がりを見せ、一度はコロナの影響で若干の落ち込みはあったものの市場全体は好調です。

 

新しい人材紹介会社(転職サイト)も、毎年誕生しています。

上場企業の場合は、決算報告(IR情報)を公開しているので、ぜひチェックしてみて下さい。

人材紹介事業は収益性が高いため、各社力を入れている事が分かりますよ。

 

もちろん、人材紹介会社経由で採用した医療機関はその対価を支払うべきなのですが、

この元手が税財源と考えると、「どう採用コストを抑えるか?」という視点は採用に困っている医療機関だけの問題ではなく、転職エージェントに付け入る隙を与えてしまっている医療業界全体の問題とも言えます。

 

求職者にとっても切実な問題

人材会社の高額な成功報酬システムは、求人側のみならず求職者にも直接関係のある話です。

 

転職エージェントに支払われる手数料は、医療機関(求人者)が支払うので、一個人には関係ないと思われがちですが、理論年収から採用コスト(成果報酬の金額)が算出されるため、求職者にも重要なことです。

なぜなら、年収を抑えて採用しないと損をする構造だからです。

 

Q.転職エージェントを使うと年収を下げられる?

理論年収の35%で考えると、年収500万円の求人票の場合は紹介料は175万円と見積もる事ができます。

年収400万円であれば、140万円です。

 

もし、年収を100万円下げる事ができれば、35万円も採用コストを下げる事ができます。

自分が採用する側であれば、年収を上げにくいシステムであることが分かると思います。

よって、採用コストによる負の影響を受けて、年収を下げて提示されている可能性があります。

 

医療系の専門職の場合は、役職手当以外での昇給は多くを見込めないので、最初に年収が決まれば基本的にはずっとその年収のままか、良くて微増程度です。

 

Q.転職エージェントを使わない方が年収が高い?

「負の影響がなければ、年収がもう少し高かったかもしれない」と思うと、このビジネルモデルが求職者にとっても切実な問題だと感じる事ができると思います。

 

もし、採用コストを極限に下げる事ができれば、負の影響を取り除くどころか、その分の幾らかを年収に反映してもらう事も可能になるのではないかと考えます。

 

人材紹介会社を頼らずに採用できる方法を普及させる事ができれば、人材会社に流れてしまっていたお金を、

  • 専門職に直接還元したり、
  • 福利厚生などの財源にしたり、
  • 病院に利益として残す事ができたり、

多くのメリットを実感できるというわけです。

 

このような、正しいお金のサイクルを意識している求人者(経営者)には、ぜひ当サイトを積極的に使って頂きたいと考えています。

 

手数料目当ての短期離職を促すクズな転職エージェントが存在

そもそも、このビジネルモデルには、大きな欠陥があると考えます。

 

早期離職時の対応として、手数料を全額返戻する人材紹介会社でなければ、「ミスマッチでも、とりあえず雇用契約を結べば収益が上がるモデル」になっているからです。

 

返戻金制度の欠陥

たとえば、

  • 30日未満の時のみ全額ですが、1ヶ月を経過した時点から6ヶ月以内まで日割計算
  • 1人までは無償で追加紹介対応(返金などの保証なし)

などがよくある欠陥パターンです。

 

ミスマッチですぐ離職されても、成果報酬の一部は支払わないといけないからです。

 

商品を購入して、使い物にならなければ、全額返金が普通ですよね。

購入金額の9割返金とか、5割返金っておかしい話ですよね。

半年経過時点で辞められたら返戻金は一切ありません。

 

転職エージェントの中には、ここに潜む抜け道を利用して手数料目当ての短期離職を促す行為を行うクズが実在します。

 

クズな転職エージェントが存在

具体的にどういう手法かというと、

フォローアップやヒアリングという理由で、「転職後の不満やトラブル」がないか転職した人にコンタクトをとります。

 

例えば、3か月〜半年後くらいに担当者から直接連絡が入り、「今の会社はどうですか?」「トラブルとか不満はありませんか?」と問いかけ、あわよくば「他にもいい会社の求人が入ったので、現状との比較目的で面談してみませんか?」と提案します。

 

どんな職場でも何かしらの不満はあるはずで、ここをトリガーにして、次の転職先を提案するわけです。

ずっと同じ職場に居続けてもらうより、何度も転職してもらう方が収益が出るビジネルモデルだからです。

 

具体的なイカサマ手法
  1. 最初の転職活動の段階で、「あなたに最適な好条件のおすすめ求人がある」とポジティブな話を出し、期待値を高めて転職を促す
  2. 期待値からのズレにより、「最初に聞いていた話と違う」などと不満を持つ
  3. 転職数ヶ月後のフォローアップにて、本人の不満をヒアリングした上で、他の施設に面談を提案する
  4. 再転職を検討する
  5. 再転職(離職)した場合には、早期離職された求人者に「別で紹介したいおすすめ人材がいます。」と提案する

 

返戻する事になっても、手数料の全額が返戻金ではないので、その差額分が収益となります。

 

早期離職の際に次の転職先を紹介できれば、新たな成果報酬が貰えるので、逆にチャンスです。

同施設には、別の人を当てがうことで、さらに成果報酬の可能性が出てきます。さらにチャンスです。

 

もし、「先に紹介した人が早期離職してしまったので、お詫びとして特別にサービスさせて頂きます!」なんてオフされた金額を提示されたら、つい「ありがとう。。」と、この提案を受け入れてしまいそうな感じがしませんか?

 

このような形で、紹介手数料を荒稼ぎする事が可能なビジネスモデルというわけです。

 

政府も悪質な人材紹介業者対策の強化に着手しているが、、、

そんな酷い話があるわけないと信じたいところですが、こういうトラブルは稀な話ではありません。

 

厚労省による現行の指針では、

  • 自らあっせんした就職者に就職後2年間は転職勧奨を行ってはならないこと。
  • お祝い金制度は「好ましくない」こと。
  • 社会通念を超えた金銭の提供は「行ってはならない」こと。

などと記載されていますが、こうしたルールを遵守させる規制はなく、サービスを受ける側が十分に注意しないといけない状況です。

 

2023年になり、ようやく政府は悪質な人材紹介業者対策の強化の必要性を認識し、本格的な検討をスタートしています。

しかし、今すぐ劇的に改善するとは考えにくく、やはりこの問題が蔓延っている現状を求人者も求職者も強く意識しておく必要があります。

 

「1.人材紹介のビジネルモデル自体に問題あり」のまとめ

人材紹介会社のビジネスモデル自体に問題があります。

悪質なエージェントが存在しているので、利用する側が十分に注意しないとカモられます。

彼らに払う仲介手数料の元は、税財源であることを忘れてはいけません。

 

次は、「2.人材紹介会社と求職者間でのトラブルについて」について深堀していきます。

 

はじめに:医療職の人材紹介会社の闇・問題点